大学病院に「インプラント科」ができたのが約20年位前だったと思います。その頃、勉強されている先生はほんの一握りでした。私は卒業後、臨床研修医を経て大学病院の「高齢者歯科」に在籍し義歯の知識や技術を習得するのに精一杯でした。
その後の勤務医時代、インプラントができれば治療の選択肢の幅が広がると思った事はありましたが積極的に習得しようとは思いませんでした。その頃きちんとしたセミナーに参加し技術を習得するためには何ヶ月にもわたり講義を受け、約100万近い費用が必要でした。医局員時代は無給でしたので貯金があるわけでもなく、新卒の勤務医の給料で自己投資する余裕がなかったというのも理由の一つです。
その後、歯科医師・歯科医院過剰やワーキングプアー、歯科氷河期と騒がれ始め、保険点数の大幅な改定などもあり二軒に一軒は潰れると言われていました。そんな中、私も開業したのですが、その頃になると様々な業者が数日間・数万円でインプラントが習得できると謳うセミナーをこぞって開催し始めました。 自己投資額も安く簡単に導入できる、と多くの先生方は思ったのではないでしょうか?そしてインプラントが経営状況の改善に繋がる糸口になり苦しい状況から脱却できる印象を与えた事は間違いないと思います。
様々な報道を目にした時、経営の為だけに安易に導入し、インプラントを埋入したいがためだけに必要のない歯(再治療をすれば残せる可能性がある歯)までを抜歯をしたり、トラブルを招いた結果、きちんと勉強し実績を積んでいる先生方にまでマイナスのイメージ、ダメージを与えてしまった事はとても悲しいと思いました。
私も、「インプラントを受けてみたい」とおっしゃる当院の患者さんのニーズに応えたいと思った事はありましたが、生体に対しての適合という点から考えれば、率直に「やらないほうが良い治療」だと思います。
一般的に一番簡単と言われている下顎の大臼歯部のインプラントはできて、難しい上顎のインプラントは出来ません。というわけにはいきません。出来る治療、出来ない治療の線引きをきちんとして、できない治療は専門の先生にお任せした方が患者様のためになると考えたため、私自身は、インプラントの手術を行なっていません。
当院でインプラントを希望する方には信頼のおける実績ある先生をご紹介しています。
解剖・咬合・全身疾患などきちんとした勉強をし、確実な診査診断のもと適切な術式でおこなえばインプラントは良い治療法だと思っています。今後、義歯とインプラントを融合することにより、より良い義歯治療ができるよう、さらに勉強をしていくつもりでいます。